声は大事!ブログ

ファーマーズマーケットの若声

時折街角に出現するファーマーズマーケットを楽しみにしている。
ある日、いつもの場所のだいぶ手前から呼び込みの声が聴こえてきた。
用事があって先を急いでいた私は、頭の隅で帰りに立ち寄ることに固く決めてその横を通り過ぎようとした。
さきほどから聴こえていた声は「ちょうど大根いま農家さんが持ってきてくれたところ。奥さん買う運命だったね!」
なんて調子のいいことを言っている。
それはハリのある明るい声で30代ぐらいのガタイのいいお兄さんといった雰囲気だ。
なんとはなしに、その声の主を探すと。みあたらない。
30代ぐらいのガタイのいいお兄さんがみあたらない。
急いでいたのにわたしは思わず足を止めて、野菜を品定めをするフリをして声の主が呼び込み始めるのを待った。
果たして。その声は、170センチに届かないくらいの痩せた、しかも60歳に近い、言ってしまえば枯れた雰囲気の人が出していた。
心の中で腰を抜かした。
声と風貌がまったく合わない。
声が若すぎる。
どうやってこの声出しているんだろう。
あまりにも気になった私は、急いで用事を済ませてマーケットに舞い戻ることに決めた。

そして、本日2度目のマーケット。
上の空で野菜を眺めるわたしはちょっと、怪しい。
でも、どうしてもあの男性の声の秘密を知りたい。
カブとみかんを検討するフリをして男性の様子を盗み見る。
彼は調子のよい呼び込みで奥様方を笑顔にしながらバンバン売りまくっている。
わたしはCIAの諜報部員のようにひっそり観察する。

まず、体幹がしっかりしているようだ。
姿勢良く、声を丹田で支えている感じ。
「よく届くように声を出すぞ」と決意した人だ。
日ごろからきっちり声を出しているんだろう。
声帯が怠けていない感じでもある。
奥さんたちに軽口をたたかなきゃいけないので、リラックスもしている。
顎はそれほど大きくない。
そしてなによりも、彼の頬はすっぱりと上がっていた。
奥さんたちを笑顔にするために、彼の頬はいや顔の上半分は上がっていた。
それはそれはよく共鳴していた。
「奥さんに野菜を売る」という仕事に最適な声を出したら若くなった、のかもしれない。

でもなあ、他にもなにか秘密があるのかもなぁ。
今度出会えたら、キャベツを品定めするフリをして話しかけてみようと思う。
「いいお声ですね」
って。
20200127
写真は若声おじさんが「持ち帰りやすいように切ってあげるよ」といって包丁を使ってくれた大根。